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会社を閉じた翌週、同じ教室で失敗を話した。キミタビ代表が「運」と呼ぶ出会いと、環境の選び方

22歳で会社を閉じて数週間後、恩師から「その話、めっちゃおもろいじゃん。来週の授業で話して」と電話が来た。断りかけて引き受けた1時間のあと、次の講師が、探していた会社の社長でした。キミタビ代表の渡邉が話す、偶然の出会いの裏側と、自分を伸ばす環境の選び方です。

 文:キミタビ編集部

プノンペン郊外の路地を、子どもたちとすれ違いながら歩く参加者

22歳の秋。大学を卒業した年の10月に、渡邉は学生のときにつくった会社を閉じました。

学生起業家は珍しかった時代で、始めたころは新聞やテレビに取り上げられていました。でも、会社を閉じたことはニュースになりません。

人に会うたびに「君、起業しててすごいね」。それに対して僕は毎回「いやいや、こういう理由で会社閉めたんだよね」。もうね、それが本当に辛くて。だからもう友達に会いたくないって思ったのは、人生でその時が唯一かもしれないって思うぐらい辛かったです。 渡邉(キミタビ代表)・2024年5月の講義

1週間ほどして、渡邉は「30歳までにもう1回挑戦する」と自分と約束します。失敗の話と、過去を「上書き」するという考え方は「失敗が怖い大学生へ」にまとめました。

ここで書くのは、その少しあとのことです。母校の福岡大学で、渡邉は2024年5月、学生にこの話をしました。本人が「できすぎたストーリーですよねって毎回言われる」という出会いの話です。

探していたのは「3年後に辞めさせてくれる会社」

もう一度起業するなら、商売の基本から学び直さないといけない。だから一度、就職しよう。そこまでは決めました。問題は、どこに入るかです。

大きい会社よりも、やっぱり小さい会社で、すごい社長の近くとかで仕事ができる。(中略)結局もう1回起業しようと思ってるんで、その就活する時にもね「すいません、数年後辞めるんです」って言わないといけない。そういう意味では、3年後に辞めさせてくれるみたいな、こんな感じの条件の会社を探しに行ったわけですね。 渡邉・2024年5月の講義

講義の教室で、渡邉は学生に「ありそうですか、この会社」と聞いています。就職のイベントにも行ってみたけれど、大きな会社の一社員として入るのは違う気がした。1か月ほど、どうしていいか分からないまま過ごしていました。

恩師の電話:「その話、めっちゃおもろいじゃん」

そこに電話をかけてきたのが、ベンチャー起業論の恩師、阿比留正弘先生(福岡大学経済学部の教授。2023年に亡くなりました)でした。

渡邉は、会社を潰した話が先生の耳にも入って、なぐさめの電話をくれたのだと思ったそうです。ところが、先生の第一声は「会社潰したの?」。経緯を話すと、返ってきたのはこうでした。

「その話、めっちゃおもろいじゃん」。いや先生、待ってくださいと。僕、今人生で一番落ち込んでるタイミングで、一番辛い経験を先生に話したら、その話めちゃくちゃ面白いよねって。(中略)ベンチャー起業論って、みんな成功してる社長さんが話しに来て、色々経験をシェアしてくれるけど、現時点で失敗してる社長が来ることはないから。ということで「来週のベンチャーで話して」って言われたんですよ。 渡邉・2024年5月の講義

会社を閉じて、わずか数週間後です。少し前に「起業します」と言って卒業していった先輩が、半年もたたずに「失敗しました」と後輩の前に立つ。渡邉は正直、断ろうと思ったと言います。

断ろうと思ったんですけど、いや、なんかもしかしたらチャンスかもしんないなって、一瞬よぎったんですよ。(中略)こういう機会がないと、多分なんで僕は失敗したのかって、絶対まとめたりしないだろうし。一旦、自分のこの起業を整理するためにも、このオファーを受けてみようと。 渡邉・2024年5月の講義

その週は、もともと登壇するはずだった社長に急な事情ができて、たまたま枠が空いていました。前半の1時間を渡邉が話し、後半の1時間は別の社長が話すことになります。先生が渡邉に出したテーマは「なぜ彼は失敗したのか」でした。

1時間話して、次の授業を聞いて帰った

渡邉は「渾身の1時間」を話しきります。せっかく大学まで来たのだからと、そのまま次の講義も聞いて帰ることにしました。後半に登壇したのは、福岡の投資ファンド、ドーガンの森大介社長です。

紹介を聞きながら、渡邉は驚きます。会社を経営する人たちを相手に、会社の経営そのものに関わる仕事をしている。社長のすぐ近くで、経営を一から学べる場所。1か月探して見つからなかった「こんな会社」が、目の前にありました。

講義が終わるとすぐに前へ行き、名刺交換をお願いします。森さんの返事はこうでした。

「あ、君、前の授業で話してた子じゃん。いや、大変だったね。次決まってんの?」って言われて。「いや、決まってないです」「じゃあちょっと明日、うちの会社遊びにおいでよ」。その翌日にドーガンに行って、そしたらもう社員全員が出てきて、みんなでランチ食べて、「いや大変だったね」っていう話を色々聞いてくれて、最後、森さんの方から「で、明日から働けんの?」って。 渡邉・2024年5月の講義

「努力を続けた人にだけ、神様が運という橋をかけてくれる」

偶然です。渡邉自身も「本当に偶然だと思います」と言っています。そのうえで、この出来事を一つの言葉にまとめています。

努力を続けた人にだけ、神様が運という橋をかけてくれる。(中略)もしこれ、僕が先生からのオファーを受けてなかったら、あの時、そこから逃げてたら、いないですよね、そもそも大学に。そして大変な中だったんだけど、一生懸命みんなの前で、なんで僕は失敗したのかっていう話をして、その次の森大介社長に会うことができたわけです。 渡邉・2024年5月の講義

運は、待っていれば落ちてくるものではなかった。断りたい依頼を引き受けたから、その日、その教室にいた。失敗を正直に話したから、森さんの記憶に残っていた。終わったあと、自分から前に出て名刺交換をお願いした。偶然の前後に、渡邉の行動がいくつも挟まっています。

キャリアの研究にも、これに近い考え方があります。スタンフォード大学のクランボルツらが1999年に発表した「計画された偶発性(Planned Happenstance)」です。人の進路は、予想していなかった出来事に大きく左右される。だから偶然を避けるのではなく、偶然に出会いやすく、出会ったときに生かせるように動くことを学ぼう、という考え方です。この考え方を紹介した全米キャリア開発協会の記事では、偶然を機会に変える行動として、好奇心・持続性・柔軟性・楽観性・リスクを取ること、の5つが挙げられています。

偶然を呼ぶ行動を、渡邉の話で数えてみる

研究で挙げられている5つの行動を、編集部で渡邉の話に当てはめてみました。右の列は、大学生が今週できることの例です。

行動 渡邉の場面 今週できることの例
好奇心 自分の出番が終わっても帰らず、次の講義を聞いた 興味の薄い授業や講演でも、1つだけ最後まで聞いて質問を1つ書く
持続性 会社を閉じても「30歳までにもう1回」を手放さなかった 決めた目標を1つだけ紙に書いて、見える場所に貼る
柔軟性 大きな会社に入る道が違うと感じて、条件から探し直した 「この道しかない」と思っている進路に、別の入り方がないかを1つ調べる
楽観性 断りたい依頼に「チャンスかもしれない」と考え直した 気が進まない誘いを1つ、「何か起きるかもしれない」と思って受けてみる
リスクを取る 失敗を正直に話し、終わってすぐ自分から名刺交換を頼んだ 話を聞いて面白かった人に、その日のうちに自分から連絡する

どれも、それだけで運が来るような行動ではありません。ただ、偶然の出会いの前後には、たいていこういう小さな行動が挟まっています。

ドーガンの6年で知った「環境と基準」

こうして渡邉は、22歳から28歳までの6年間をドーガンで働きます。周りは、銀行などで力をつけてきたプロフェッショナルばかり。そのエリートたちが、夜中まで働いていました。

僕も本当、毎日1時2時に帰る。1時2時に帰ろうとしたら、上司から「あ、今日早帰りだね」って言われる。そのくらいの環境ですけど、その環境で6年間働いてきたから、ものすごい僕の中での学びがあったんですね。 渡邉・2024年5月の講義

渡邉がここで言っているのは、働く時間の長さではなく、周りの人たちの「当たり前」の高さです。講義では、高校野球のたとえを出していました。

甲子園で優勝したいって思う人が、甲子園に出たこともないような高校に入っても絶対無理です。だったら甲子園出場校に入るべきだし、甲子園出場校に入ったら何が起こるかって言うと、全員がレベル高いわけ。(中略)そういう人たちの中で揉まれていくと、いつの間にか自分のレベルがどんどん上がっていくわけです。 渡邉・2024年5月の講義

英語を話せるようになりたいなら、英語を話す人たちの輪に入る。そこでは話せることが当たり前で、その人たちがどんな勉強をしてきたのかが、自然に耳に入ってくる。渡邉は、自分がいま大学生だったら、東京で本気でIT企業をつくろうとしている学生たちの所へ行き、「僕も入れてもらえませんか」と頼むだろう、とも話していました。

周りの人たちが、自分と同じぐらいの考えしかない中で、突き抜けることはできますか。 渡邉・2024年5月の講義

環境を変えるには、何かを「捨てる」

新しい環境に飛び込もうとすると、時間が足りなくなります。バイト、サークル、資格の勉強、就活の準備。渡邉は講義の前半で、そこにも答えていました。

3つ、皆さんの力が100だとしたら、当たり前ですけど、3つに33%ずつしか力を割けませんよね。(中略)だったら1つ減らして2つに絞って、50%50%の力に変えた方が、成功確率がこの2つ上がりそうじゃない。 渡邉・2024年5月の講義

渡邉が強調したのは「減らす」ではなく「捨てる」ことでした。ゼロにする。高校時代の渡邉にとって、それは受験勉強でした。「受験勉強をするっていうことを捨てたわけです」と本人は話しています。社長になるための勉強に全部を向け、それができる場所として、ベンチャー起業論のある福岡大学を選んだ、とも。

捨てるのは怖いことです。でも、全部を少しずつ続けているかぎり、新しい環境に飛び込む時間は生まれません。

自分の環境を点検する4つの問い

  1. いまいちばん長い時間を一緒に過ごしている5人は、自分がなりたい姿の「当たり前」を持っている?
  2. 伸ばしたいことが1つあるとして、それが当たり前の人たちは、どこに集まっている? 学内のゼミ、学外のコミュニティ、イベント、海外のプログラム
  3. そこに入れてもらうために、今週送れる連絡は? 1通でいい
  4. その時間をつくるために、ゼロにできるものは? 減らすのではなく、1つやめる

キミタビの13日間も、一つの「環境」

キミタビでは、カンボジアの大学生と同じチームを組み、英語で話し合い、子どもたちのための企画をつくります。英語で意見を言うのが当たり前、人前で発表するのが当たり前、という環境に、13日間だけ身を置くことになります。

渡邉の話をそのまま当てはめるなら、大事なのはそこで何を「当たり前」にして帰ってくるかです。そして、うまくいかなかった日の話を、次の誰かに正直に話せるかどうか。渡邉の場合、次の場所につながったのは、失敗を話した1時間のほうでした。

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