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「やりたいことが分からない」大学生へ。キミタビ代表が、カンボジアで「挑戦しよう」と言えなかった日
講義のあと、学生からいちばん多く届く相談は「やりたいことが分からない」。キミタビ代表の渡邉も、40歳で同じ問いの中にいました。カンボジアで言葉に詰まった日と、「自分の夢より、誰かの夢のほうが手伝いやすい」という考え方、迷ったときの決め方をまとめました。

「自分のやりたいことが分からないんです」
キミタビ代表の渡邉は、毎年、母校の福岡大学の授業「ベンチャー起業論」に呼ばれて話をしています。講義のあと、学生からメッセージが届く。いちばん多いのが、この相談だそうです。
2024年5月の講義で、渡邉はその相談にこう返しています。
いや、そうだよね。やりたいことが今完全に決まってますっていう人、少ないよね、多分。 渡邉(キミタビ代表)・2024年5月の講義
励ますでも、急かすでもなく、まず「そうだよね」。
実際、日本財団が2022年に日本を含む6か国の17〜19歳に聞いた調査で、「将来の夢を持っている」と答えた日本の若者は59.6%。6か国の中でいちばん低い割合でした。夢が決まっていないのは、少数派ではありません。ここからは、その講義の終わりの20分で渡邉が話したことを、学生向けにまとめます。渡邉自身も、40歳になって、同じ問いの中にいました。
15歳で決めた「社長になりたい」
渡邉の最初の「やりたいこと」は、はっきりしていました。社長になること。きっかけは、高校1年の最初の実力テストです。地元でいちばんの進学校に入り、必死に勉強して臨んだ結果は、学年360人ほどの中の180番でした。
めちゃくちゃいいわけでも、めちゃくちゃ落ちこぼれなわけでもない。なんかすっごい中途半端な順位が返ってきた時に(中略)田舎の進学校で180番だったとしたら、福岡県で言うと何番なんだろう、ましてや全国で言うと一体俺は何位なんだろうなって考えた時に、うわ、勉強で戦うって無理じゃない、って僕は思ったんですね。 渡邉・2024年5月の講義
勉強では勝てないかもしれない。でも、違うところなら勝てるんじゃないか。そう1年ほど悶々としていたときに目に入ったのが、母方の祖父でした。中学を出て20歳で米の卸の会社に運転手として入り、45年かけて65歳で社長になった人です。
渡邉の記憶に残っているのは、お盆と正月に祖父の家に届く、食べきれないほどのお中元とお歳暮でした。いとこたちと車に積んで持ち帰る孫たちを、祖父が後ろから笑って見ている。
かっこいいなと思って。それと同時に、じいちゃんが社長になれるんなら、俺もなれるじゃん。 渡邉・2024年5月の講義
高校2年のころ、渡邉は「社長になるための勉強をしたい」と決めます。本人はこれを、人生で最初のターニングポイントと呼んでいます。
決めたのは「何者か」で、「何をするか」ではなかった
ここから渡邉は、大学で学生のうちに会社をつくり、2年ほどで閉じ、投資ファンドで6年働き、フィリピンで語学学校を立ち上げます(その道のりは「失敗が怖い大学生へ」に書いています)。社長には、なりました。
ところが、コロナで事業が大きく揺れたあと、渡邉は自分の目標を見直すことになります。
僕自身も実はコロナを経て、この人生かけてやりたいことって何なんだろうなって、未だに思ってるんですね。さっき言った、僕が社長になりたいっていうのは、社長になるっていうのが目的ではなくて、社長って何かを達成するための手段であることに気づいたんですね。 渡邉・2024年5月の講義
「社長になる」は、肩書きの夢でした。その肩書きで何をするのかは、決まっていなかった。20年以上かけて手段を手に入れた人が、そこで改めて「やりたいことが分からない」の中にいたことになります。
大学生のいま、やりたいことが決まっていなくても、遅れているわけではありません。決まっているように見える人も、決まっているのは「何者になりたいか」までのことが多い。渡邉の話は、そう読むこともできます。
カンボジアで、いつもの言葉が言えなかった
自分は何をやりたいのか。コロナの間、渡邉は探しに探して、カンボジアという国に行き着きます。講義で渡邉が示したのは「20.2」という数字でした。カンボジアで高校を卒業できる人は、5人に1人ほどしかいない、と。
ユネスコ統計研究所の推計でも、カンボジアで高校にあたる後期中等教育を修了した人の割合は、2020年で19.7%。少しずつ上がってはいるものの、2025年でも25.7%です。中学にあたる前期中等教育でも、世界銀行の統計で2024年に61.6%。日本では、ほとんどの人が当たり前に通る道です。
その背景にあるのが、1970年代のポル・ポト政権の時代です。教師や医師など、教育を受けた人たちが多く命を落としました。渡邉は講義でこう説明しています。
ちょうど実はカンボジアの人口ピラミッドを見ると分かるんですけど、その時に20代30代だった人たちが、ボコっといないんです。(中略)残った人たちって、全員、教育を受けたことがない人たちが国に残った。そこからのカンボジアは再起をしないといけなかった。これがわずか50年ぐらい前のことね。 渡邉・2024年5月の講義
そして、講義の中でいちばん声の調子が変わったのが、次の場面です。
僕がこうやってみんなの前で話す時、必ず「挑戦は怖くない、失敗は怖くない、皆さん挑戦してください」っていう話をするんだけど(中略)高校も卒業させてもらえませんでした。もう小さい頃から、親は教育の意味も分かってません。小さい頃から働かされて、字も書けません。(中略)そんな子を目の前にした時に、挑戦しようよって言えなかったんですね。あまりにも不平等すぎて。 渡邉・2024年5月の講義
失敗しても、もう一回挑戦すればいい。渡邉はその考え方で、学生起業の失敗からも、コロナからも立ち上がってきました。その言葉が、ここでは出てこなかった。挑戦の手前の、スタートラインに立てない人がいる。
渡邉はそこで、同情の話で終わらせませんでした。
こういった問題に、僕がビジネスを通じて取り組んでいきたいなっていうのが、実は新しい目標になったんです。 渡邉・2024年5月の講義
「社長になる」の先にあった目的は、渡邉の場合、自分の内側を掘っても出てこず、外で、ある子どもを前に言葉に詰まったときに見つかっています。
自分の夢より、誰かの夢のほうが手伝いやすい
講義の最後、渡邉は「やりたいことが分からない」への自分なりの答えとして、こう話しました。
自分の夢を見つけるのは、とっても難しいんだけど、誰かの夢の手助けをするって、すごくみんな得意だと思うんだよね。それを通じて自分の夢を見つけていく。 渡邉・2024年5月の講義
「自分は何がしたいんだろう」と考えると、手が止まる。けれど「この子が夢を持てるようにするには、何ができるだろう」なら、考えられることがいくつも出てくる。手伝っているうちに、自分がどんなときに夢中になるのか、何が許せないのかが見えてくる。そういう順番です。
これは、気持ちの持ちようの話だけではありません。アメリカの心理学者イェーガーらが2014年に発表した研究では、2,000人を超える高校生・大学生を調べ、「自分のためだけでなく、誰かや社会の役に立ちたいから学ぶ」という目的を強く持つ人ほど、退屈な課題でも投げ出さずに取り組み、数か月後に大学をやめにくかったことが示されています。短い授業でその目的を考えてもらうだけで、高校の理科と数学の成績が数か月にわたって上がった、という結果もありました。一方で「面白い仕事に就きたい」のような自分に向いた動機だけでは、同じような効果ははっきり出ませんでした。
誰かのためという目的は、続ける力にもなりうる。渡邉が言う「誰かの夢の手助けを通じて」は、研究の言葉に置き換えると、そういうことでもあります。
実際に、先に「誰か」から入った先輩
渡邉はこの講義の少し前、2024年の春に、カンボジアでのプログラムを実践女子大学と共同で行っています。講義では、その参加者の一人のその後にも触れていました。アジアで働きたいと考えるようになり、東南アジアに拠点のある日本の会社に就職が決まった、と。
やりたいことって何だろうっていうのを、自分自身で見つけるって、やっぱすごい難しいんで。本当に子どもたちがどうやって夢を持てるんだろうっていうことの先に、実は自分の夢が見つかるんじゃないかな。 渡邉・2024年5月の講義
自分の夢を探しに行ったのではなく、子どもたちの夢について2週間考えた人が、帰ってきて自分の行き先を一つ決めた。渡邉が言う順番の、ひとつの例です。
迷ったら、頭より先に気持ちに聞く
やりたいことの候補が見えてきても、次は「どっちを選ぶか」で迷います。渡邉にも、大きく迷った時期がありました。28歳、投資ファンドを辞めてアジアで起業すると決めたときです。仕事は順調で、楽しくて、給料もいい。1か月ほど悩んだと言います。決め手になった考え方を、渡邉は講義でこう話しています。
感情はね、嘘つかないんですよ。脳は嘘つくんですよ。(中略)その感情をなかったことにしようとする脳みそが、嘘つこうとするんです。 渡邉・2024年5月の講義
本当はワクワクしているのに、頭が「安定のほうが正しい」「周りはそうしていない」と言い換えてしまう。迷う時間をかけるのはいい。でも最後は、どっちの未来にワクワクするかで決める。
ワクワクする未来を選んだ後に、仮にうまくいかなくて、うわ、あの時こっち選んどけばよかったなっていうのは、多分ならないんですよね。いや、俺が自分で決めたことだし、それに対しては後悔ないよ。(中略)迷ったら自分の感情に聞いてみるのが一番早いです。聞いたらすぐ分かるんです。あ、答えは決まってたって。 渡邉・2024年5月の講義
「ワクワク」と聞くと、ふわっとした話に聞こえるかもしれません。ただ渡邉が言っているのは、決めたあとに自分が引き受けられるかどうかの話です。うまくいかなかったときに、誰かのせいにしないで済む選び方、と言い換えてもいいと思います。
気持ちに聞くための3つの問い
頭の中の言い訳と、気持ちを分けるために、編集部で問いを3つ用意しました。紙に書いて、答えを1行ずつ埋めてみてください。
- 両方の道を選んだ1年後の自分を、それぞれ1行で書く。 書いていて、手が速く動いたのはどっち?
- 「やらない理由」を全部書き出す。 その中に「周りがやっていないから」「親や友だちにどう見られるか」は、いくつある?
- うまくいかなかった場合を想像する。 それでも「自分で決めたことだ」と言えるのはどっち?
今週できる、「誰かの夢を手伝う」小さな一歩
渡邉の話を、明日からの行動に置き換えてみます。いきなりカンボジアに行かなくても、誰かの夢を手伝う入口は身近にあります。大事なのは、手伝ったあとに「自分は何に夢中になったか」を1行だけ書いておくことです。それが、自分の夢の手がかりになります。
| 誰の夢を | 今週できる一歩 | 終わったら1行で書くこと |
|---|---|---|
| 友だちの挑戦 | 資格の勉強、留学の準備、大会の練習。1つ選んで、1回だけ本気で手伝う | 手伝っていて、時間を忘れたのはどの瞬間だったか |
| 後輩・年下の子 | 高校の後輩の進路相談や、学習支援のボランティアに1回だけ参加する | 何を聞かれたとき、いちばん力が入ったか |
| 留学生 | 学内の留学生に、日本で困っていることを1つ聞いて、解決を手伝う | 相手のどんな「困った」に、自分が引っかかったか |
| 地域のお店や団体 | 応援したいお店や団体に、1つ提案をしてみる(SNSの発信、チラシなど) | 提案のどこを考えるのが楽しかったか |
| 遠くの誰か | 気になる国や地域の課題を1つ調べて、そこで活動している人に話を聞く | 調べていて、腹が立ったこと・許せないと思ったことは何か |
5つ全部やる必要はありません。1つやって、1行書く。それを何回か重ねると、自分が繰り返し反応しているものが見えてきます。
キミタビの13日間で向き合う問い
渡邉が講義で話したプログラムは、いまキミタビになっています。カンボジアでは、プノンペン郊外のアンドン地区の子どもたちが夢を持てるようにするには何ができるかを、現地の大学生と同じチームで考えます。自分の夢を探しに行くのではなく、まず目の前の子どもたちの夢について考える。その先に自分の夢が見つかるかもしれない、という渡邉の考え方が、そのまま形になっています。
もちろん、13日間で「やりたいこと」が必ず決まるわけではありません。決まらないまま帰ってくる人もいます。それでも、「何に心が動いたか」の手がかりを、いくつも持ち帰ることはできます。
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