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学生起業やビジネスコンテストの前に。キミタビ代表が会社を閉じて知った「商売の基本」と、1番になれる場所の選び方

「世界に1つの結婚式」は、誰もが欲しがるアイデアでした。それでも会社は2年で閉じた。キミタビ代表の渡邉が講義で話した、ビジネスプランに欠けていた視点、2度目の起業で選んだ「1番になれる場所」、借金をせずに始めるやり方を、企画を考える大学生向けにまとめました。

 文:キミタビ編集部

村の中で働ける場所をつくる案を、スライドで発表する参加者

大学3年、21歳。渡邉が最初の会社をつくったきっかけは、ホテルの企画のコンテストでした。カップル向けのイベントを提案して優勝すると、ホテルの側から「君たちのほうが年が近いから、お客さんが集まる。君たちが主催しなさい」と言われた。個人には仕事を頼めないから、会社をつくってほしい、と。

学生起業家がまだ珍しかった時代です。イベントには新聞やテレビの取材が入り、会社はやがて、結婚式をつくる仕事へ移っていきます。

一生に1回しかない結婚式を、なんかそんな感じでみんないいんだろうか。もっと自分らしく、その新郎新婦らしい結婚式をね、もうオリジナルの、その世界に1つしかないウェディングを作ったら、絶対みんな欲しいじゃん。 渡邉(キミタビ代表)・2024年5月の講義

どの式場でも同じ流れの結婚式ではなく、二人だけの式。40組の結婚式を担当したところで、会社は閉じることになった、と渡邉は話しています(そのときの気持ちは「失敗が怖い大学生へ」に書きました)。

2024年5月、母校の福岡大学の授業「ベンチャー起業論」で、渡邉は学生にこう聞いています。「さあ、なんででしょう」。

「いいアイデア」が会社を潰した理由

オリジナルのウェディング、あなただけの世界に1つだけのウェディング、欲しくないですか。(中略)どう考えてもニーズあるよ、これ最高じゃん。もう実際、日本中の新郎新婦がうちでやりたいって言い出すんじゃないかって思ったぐらいだったんですけど、さあ、ここに欠けている視点は何でしょう。 渡邉・2024年5月の講義

答えは「儲けること」でした。

オリジナルの結婚式をつくっても、もらえる金額はふつうの結婚式とほとんど変わらない。一方で、かかる費用はまったく違います。無人島やライブハウスで式を挙げるのは、アイデアとしては面白い。でも、結婚式をしたことのない場所で一からつくるには、人手もお金もかかる。渡邉は講義で「倍の値段をもらわないといけない」と話しています。でも当時の渡邉には、それが分かっていなかった。お客さんは安いほうがいいはずだ、と思っていました。

商売の基本ってのは、人が欲しがるもの、まあこれは当たり前です。人が欲しくないもの作ってもしょうがない。人が欲しがるものを、安く作って、高く売る。すごくシンプルなんですけど、すごく大事なことです。 渡邉・2024年5月の講義

いいアイデアは、世の中にいくらでもある。こんなものがあったらいいのに、と思うものの多くが実現していないのは、つくるのにお金がかかりすぎるからです。渡邉は「僕だったら絶対買いたい」と今でも思っている、と言います。ただ、その結婚式が1,000万円だったら、買えるかどうか。

ビジネスコンテストや授業の企画でも、「みんな欲しがるはず」で止まっている案は多いものです。欲しがる人がいる。それを、いくらでつくれて、いくらで売れるのか。三つがそろって、はじめて商売になります。

2度目のアイデアは、自分の体験から生まれた

会社を閉じたあと、渡邉は投資ファンドで6年働き、28歳でアジアで起業すると決めます。何をするかは、まだ決まっていませんでした。足りないものは、はっきりしていた。英語です。

アメリカの語学学校は、1年で生活費も入れて200万円ほど。授業は先生1人に生徒20人ほどで、英語が苦手な自分が発言できるとは思えなかった。そこで知ったのが、フィリピンへの語学留学でした。先生と1対1の授業が1日6コマ、食事と寝る場所がついて、3か月で30万円ほど。当時の渡邉の話です。

着いたセブ島の学校は、水しか出ないシャワーの3人部屋でした。それでも、授業は「めちゃくちゃ良かった」と言います。

文法とか間違ったら怒られそうじゃないですか。けどね、全く怒らないんですね。「ナイスチャレンジ」って言ってくるんですね。別に文法間違っててもいい、それを直すのは私の役割だから、あなたは喋りなさい、喋って喋って、もっともっと喋りなさい。そしたらどんどんどんどん自信がついてきて。 渡邉・2024年5月の講義

3か月で、英語で話せるようになった。日本のどこを探しても、3か月で話せるようにします、という所は見たことがない。日本人がまだ知らないだけで、知らせたら大きなビジネスになる。フィリピンに渡って半年後には、語学学校を立ち上げることを決めていました。

ビジネスの原点ってのは、基本的にはやっぱりこの原体験であると。(中略)仮にフィリピンに行ってなくて、このビジネスモデルが思いつけたかっていうと、ほぼ無理ですよね。 渡邉・2024年5月の講義

誰もがしている体験からは、誰もが思いつくアイデアしか出てきません。人がまだしていない体験の中で、不便を感じたり、いいものを見つけたりしたときに、ビジネスの種が見つかる。そのいちばん見つけやすい場所は旅だ、と渡邉は言います。なんでこの国には、日本にあるあのサービスが無いんだろう。逆に、この国のこれは、なんで日本に無いんだろう。

1番になれる場所を、自分で決める

フィリピンの語学学校は、当時すでに韓国の人たちの間で広まり、日本の大学生も来ていました。生徒の多くは大学生です。そこに学生向けの学校を新しくつくっても、何年も前からやっている、もっと安い学校と戦うことになります。

渡邉が見ていたのは、その隙間でした。英語を本気で学びたい社会人には、選べる道が少なかった。語学学校に行けば、大学生の中にお邪魔しているような気分になる。ビジネスの英語を本格的に学ぶなら海外の大学院(MBA)があるけれど、もともとの英語力が要るうえに、何年もの時間と大きな費用がかかる。

短期で学生中心のサービスと、長期で社会人だけしかいないサービスの、この間ぐらいがもしあれば、僕はもうパンとそこの学校に行ったのに、っていうのが、僕の着想のきっかけなんですね。 渡邉・2024年5月の講義

学生は、あえて狙わない。社会人の生徒は全体の1〜2割しかいないけれど、その人たちにとって最高の学校をつくれば、そこを丸ごと取れる。社会人ならではの、人生の節目にいる人どうしのつながりも生まれる。「大人の留学」という考え方で、セブ島の社会人向けの語学学校として、5年で1番になった、と渡邉は話しています。この学校の会社(MeRISE)を、渡邉はその後、退職しています。

講義の中で、渡邉はこう念を押していました。

皆さん、ビジネスを作る時に、ナンバー2以下になるビジネスは絶対作らないでください。ナンバー1になれる可能性のあるビジネスだけ。 渡邉・2024年5月の講義

日本一高い山は誰でも言えるけれど、2番目はなかなか出てこない。新聞やテレビも、「この街でいちばんのクロワッサン」なら取り上げやすいけれど、「2番目」は取り上げにくい。1番の範囲は、自分で絞っていい。地元の街での1番でも、ある人たちにとっての1番でもいい、と渡邉は言います。

価値の中心を、どこに置くか

もう一つ、渡邉が大事にしていたのが「何を価値の中心に置くか」です。フィリピンの語学学校の多くは、先生の給料が安いから、安く授業を受けられる、という点を売りにしていました。渡邉たちは、そこに価値を置きませんでした。

僕らが置いた価値は、フィリピンの先生たちはダイヤモンドの原石なんだと。(中略)この子たちをゴリゴリに磨き上げて、世界中どこに出しても恥ずかしくないぐらいの超プロフェッショナルな先生に育て上げたら、いや、高くてもこの先生から授業を受けたいって思うぐらいの先生になったら、いくらでもビジネスの展開としてあるよね。 渡邉・2024年5月の講義

国が豊かになれば、先生の給料は毎年上がります。安さだけに頼っていた学校は値上げせざるを得なくなり、気づいたら安くもなくなる。そのとき、何が残るのか。講義によれば、渡邉たちは先生を日本の英会話の教室にも送り出し、2020年には台湾にも広げていました。安い働き手として見ていたら、日本と同じ給料を払って連れてくることはできません。

学生の企画でも同じことが言えます。「安い」「無料」は、誰かがもっと安くした瞬間に負けます。自分たちの企画の価値の中心は何か。そこに人がいるなら、その人たちのどこが光るのか。

借金をしないで始める

講義のあとの質問の時間に、ある学生が聞きました。お金持ちは何度でも挑戦できるけれど、ふつうの人は失敗したら借金を返すのに何年もかかって、二度と起業できなくなるのではないか。

僕の場合、2回起業したんですけど、1円も借金してないです。それなんでかって言うと、いかに自分の持っているお金の範囲内で、まず小さくスタートするか。(中略)例えばね、こういうコスメ絶対売れるんじゃないかなと思ったら、まず自分でパパッとECサイト作ってみて、それで本当に売れそうだなって思ったら、大きく投資してやっていく。 渡邉・2024年5月の講義

いけると分かってから、銀行からお金を借りて大きくする。起業した人がみんな借金に追われるわけではなく、どう始めるかによる、というのが渡邉の答えでした。

起業の研究にも、これと同じ考え方があります。経営学者のサラスバシーが熟練の起業家たちを調べて示した「エフェクチュエーション」という考え方の一つに、「許容可能な損失」があります。いくら儲かりそうかを先に計算するのではなく、いくらまでなら失ってもいいかを先に決めて、その範囲で始める。そして、始めたあとで仲間や協力者を巻き込んでいく。研究の普及に取り組む団体は、熟練の起業家はこの順番で考える、と説明しています。

学生なら、失ってもいいのはアルバイト代の数か月分かもしれないし、夏休みの時間かもしれません。その範囲で、まず小さく試してみる。

企画を出す前の点検表

渡邉の2つの事業を例に、企画を点検する問いを表にしました。授業のビジネスプラン、ビジネスコンテスト、サークルのイベントにも使えます。自分の企画で、右の列を埋めてみてください。

点検する問い 1度目:オリジナルの結婚式 2度目:社会人向けの語学学校 あなたの企画
欲しがる人はいるか いた。「絶対みんな欲しい」 いた。英語を本気で学びたい社会人
いくらでつくれるか 式ごとに一から。ふつうの式より人手もお金もかかる 先生と1対1。先生を育てる費用がかかる
いくらで売れるか ふつうの式と同じ値段しかもらえなかった 社会人は予算がある。質を上げて値段も上げた
何の1番か (講義では語られていない) セブ島の、社会人向けの学校
価値の中心は何か 二人だけの式(ただし値段に乗らなかった) 先生たちの力。安さではない
失敗したら、いくら失うか (講義では語られていない) 手持ちのお金の範囲。借金はしていない
どの体験から生まれたか 結婚式はどこも同じ、という違和感 自分がフィリピンで3か月学んだ体験

左の2列を見比べると、1度目に空いていたのは「いくらでつくれて、いくらで売れるか」と「何の1番か」でした。アイデアの良し悪しより先に、そこが埋まっているかを見てください。

キミタビの企画も、この表で考える

キミタビの13日間では、カンボジアの大学生と同じチームで、アンドン地区の子どもたちのための企画をつくり、発表します。DIVE では、村の中で親が働ける場所をつくるといった、続けられる仕組みまで考える人もいます。

渡邉の話をそのまま持ち込むなら、問うことは同じです。誰が欲しがるのか。いくらでつくれて、誰がお金を払うのか。その地区に「しか」無い価値は何か。善意だけでは続かない、というのは、学生起業で渡邉がいちばん痛い形で学んだことでした。

次に読むなら

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