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留学の話は、みんな似てしまう。東芝に内定した松山さんが、就活の前にカンボジアへ行った理由
キャリアセンターで見たチラシ1枚から、カンボジア、ニュージーランドの交換留学、東芝の内定、そして卒業論文まで。亜細亜大学4年の松山さんは、留学だけでは面接で人と同じ話になると言います。一つの経験が次の経験を呼んだ順番と、自分の経験を「自分だけの話」に変える5つの問いをまとめました。

面接で「学生時代に力を入れたこと」を聞かれて、留学の話をする。英語で苦労した。現地の友達ができた。視野が広がった。
亜細亜大学4年の松山さんは、それでは足りないと言います。
留学ってたいていの大学生はすると思うんですよ。英語の勉強もたぶんすると思うんですけど、留学で就活をしてると、(中略)だいたいみんな同じことやってるから、だいたい同じこと言えるんですよ。 松山さん
松山さんは2027年4月、東芝に入社します。就活を終えたいま振り返ると、面接で話せた「自分にしかない話」は、2年前の夏にキャリアセンターで見た1枚のチラシから始まっていました。
チラシ1枚と、友達との旅の帰り道
2024年の夏休み。松山さんはたまたま大学のキャリアセンターに行き、キミタビのチラシを見つけました。
あ、面白そうって思って参加しました。 松山さん
迷ったかと聞くと、「ほぼほぼ迷わなくて」と答えます。ちょうど友達と東南アジアへ旅行に行く話をしていて、その帰りに一人でどこかを回りたいと思っていた。そこにカンボジアがあった。決めるのは、ほとんどその場だったそうです。
大きな決意があったわけではありません。予定の空いていた夏に、面白そうなものがたまたま目に入った。始まりはそのくらいでした。
あとから「きっかけ」になる経験は、始める時点では軽いことが多いようです。最初から意味のある経験を選ぼうとすると、なかなか動けません。
目で見たことが、勉強の理由になった
参加してどうだったかを聞くと、松山さんは一言でまとめました。
一言で言うと、価値観が変わったかなって思っています。 松山さん
何が変わったのか。松山さんは、日本では見えにくかった貧しさを、カンボジアで自分の目で見たことを挙げます。
勉強したくてもできないというか、そういう人たちがいるっていうことを、実体験として目で見てわかったので。 松山さん
そこから、帰国後の行動が変わりました。
自分はその人たちから比べると、もっと恵まれてる環境にいるので、もっと勉強頑張って、自分自身が稼いで、その子たちに還元できて、その子たちもお金を稼いで、勉強できるように、自立できるようになれればなっていう感じで。(中略)勉強をいっぱいしようって思いました。 松山さん
「何かしてあげたい」とは、少し違う言い方です。松山さんが考えているのは、相手が自分で稼いで、自分で勉強できるようになること。そのために、まず自分が学ぶ。気持ちの向きが、自分の机に戻ってきています。
ニュージーランドで「一人ではできない」を知る
松山さんがカンボジアに行く時点で、ニュージーランドへの交換留学はすでに決まっていました。カンボジアが留学のきっかけだったわけではありません。変わったのは、留学で何を学ぶかと、その熱の強さでした。
その交換留学先でも、勉強をしようっていう気持ちは、たぶんカンボジア行ってないと、ここまで強くなかったし。 松山さん
ニュージーランドで選んだのは、経営の勉強です。プロジェクトマネジメント、起業家精神。理由は、カンボジアで考えたことにまっすぐつながっています。
その人たちがどうやって自立して稼げるかっていうところを考えてて、そのためには、僕自身が経営のことをまずは知ってないと、その人たちに教えることができないので。 松山さん
授業では、グループでウェブのアプリケーションを開発し、クラスで発表しました。そこで一番大きかったと本人が言うのは、人と組むことでした。
実際に学んでみて思ったのは、自分一人ではできないなっていう。(中略)コラボレーションをするっていうところが、いかに重要かっていうことは、学ぶことが大きかったです。 松山さん
カンボジアで見たことが、留学で学ぶ中身を決めた。留学で学んだことが、次に話す言葉になった。一つの経験が、次の経験の「理由」になっていく流れが、ここで見えてきます。
東芝を選んだ二つの理由
就活の準備は、ニュージーランドに行く前から少しずつ進めていました。SPI やテストセンター(就活の筆記試験)の勉強もしていた。本格的に動いたのは、12月に帰国してからです。
大変だったかと聞くと、松山さんは「あんまり大変だなって思ったことはないです」と言います。
自分は学生時代にいろんなことをできたので。(中略)そういうところで評価していただいてたので。 松山さん
絞り方ははっきりしていました。メーカー志望で、大企業。業界は絞らない。理由は「学べる環境がしっかりある」こと。東芝なら e ラーニングなどの仕組みがあり、自分が向上心を持って勉強すれば、次のステップにつながる。
いくつか内定をもらった中で、東芝に決めた理由はもう一つありました。
全員がプライドを持ってるというか、働いていることにプライドを持ってるっていうところが、すごい一番の決め手かなっていうところでしたね。 松山さん
「学び続けられる場所か」と「そこで働く人が仕事を誇っているか」。カンボジアから続く「学ぶ」が、会社選びの物差しにもなっていると、私たちは見ています。
企業は「海外経験」をほとんど見ていない
ここで、少し意外なデータを見ておきます。就職みらい研究所の「就職白書2025」で、企業が新卒採用の基準で重視する項目と、学生が面接でアピールした項目を比べたものです。
| 項目 | 企業が重視する | 学生がアピールした |
|---|---|---|
| 人柄 | 92.9% | 37.2% |
| 自社への熱意 | 73.9% | 18.4% |
| 今後の可能性 | 64.9% | 12.7% |
| 海外経験 | 2.9% | 8.6% |
「海外経験」を重視する企業は2.9%しかありません。海外に行ったこと自体は、ほとんど評価の対象になっていない。企業が見ているのは、人柄や、これから伸びそうかどうかです。
松山さんの言葉と並べると、意味が見えてきます。
こいつ面白いなって思わせるためには、その面白い経験をしないといけないと思って。(中略)こいつに仕事任せられそうだなって思われる人材になるためには、そういう違った、面白い経験をする必要があると思うんで。 松山さん
「面白い経験」は、行った場所の珍しさのことではない、と私たちは読んでいます。カンボジアで見たことが、ニュージーランドで何を学ぶかを決め、それが会社選びの物差しになった。その順番を自分の言葉で話せることが、人柄と「今後の可能性」を伝えることになります。同じ留学でも、その前に何を見て、何のために行ったかで、話はまったく別のものになります。
「留学した」だけでは、話が似てしまう理由
松山さんの言う「みんな同じ」を、別の数字からも見てみます。日本学生支援機構(JASSO)の調査では、2023年度に海外へ留学を始めた日本の大学生などは89,179人。そのうち57,044人、およそ64%が1か月未満の留学でした。
海外に出る学生は増えています。そして、その多くは、夏や春の休みに数週間、語学や異文化を学びに行く形です。行き先や長さが似ていれば、面接で話す中身も似てきます。英語で苦労した、友達ができた、視野が広がった。どれも本当のことですが、聞く側から見ると、どの学生の話か区別がつきにくい。松山さんの話が違って聞こえるのは、前の経験が次の選択を説明しているからです。
次は、卒業論文でフィリピンへ
卒業までの残りの時間で、松山さんはもっと外の世界を見ておきたいと言います。卒業論文のテーマは「英語教育と経済格差」です。
英語を勉強できるのは上の層で、下の層は英語が勉強できないと、得られる収入も違ってくるだろうし。 松山さん
英語が仕事の言葉になり、母国語が貧しい人の使う言葉のようになってしまう国がある。日本も、いつかそうならないか。指導教員がフィリピンの大学で博士号をとった人で、その話を聞きながら、フィリピンにも実際に行ってみるつもりだそうです。
カンボジアで「勉強したくてもできない人」を見た学生が、2年後に「誰が英語を学べて、誰が学べないのか」を卒業論文で問おうとしている。最初の夏から、まだ線は続いています。
自分の経験を「みんなと同じ話」にしない5つの問い
松山さんの話から、自分の経験を確かめる問いをつくりました。いま海外に行く予定がある人も、もう行った人も使えます。右の欄を自分の答えに置き換えて、紙に書き出してみてください。
| 問い | 松山さんの答え |
|---|---|
| ① そこで、何を自分の目で見たか | 勉強したくてもできない人たち |
| ② 見て、自分の中で何が動いたか | 恵まれている自分が、もっと勉強しようと思った |
| ③ そのあと、実際に何を変えたか | 交換留学で経営を学ぶことにした |
| ④ 次の場所で、何がわかったか | 一人ではできない。人と組むことが大事 |
| ⑤ いまの選択に、どうつながっているか | 学び続けられる会社を選び、卒業論文のテーマにした |
5つの欄が埋まったら、上から順に「〜を見て、〜と思い、〜を変えた。そこで〜がわかり、いま〜を選んでいる」とつないでみてください。それが、面接で1分ほど話す答えの骨組みになります。松山さんの答えを編集部がつなぐと、こうなります。
「カンボジアで、勉強したくてもできない人たちを見ました。自分は恵まれていると思い、もっと勉強しようと決めて、交換留学では経営を学びました。そこで一人では何もできないと知り、学び続けられる会社を選びました」
③から先が空いたままなら、その経験はまだ「行った話」で止まっています。それは悪いことではありません。次に何をするかで、あとから書き足せます。
松山さんも、最初はキャリアセンターで見かけたチラシ1枚でした。
こいつに仕事任せられそうだなって思われる人材になるためには、そういう違った、面白い経験をする必要があると思うんで、僕はぜひお勧めしたいなと思います。 松山さん
自分の経験の書き方そのものは、ガクチカで海外経験はどう書く?で、例文とあわせて詳しくまとめています。